2021年

新年の会長ご挨拶と昨年のご報告

新年の会長ご挨拶と昨年のご報告    
                    東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
                                   深田吉孝

新年明けましておめでとうございます。

この新年ご挨拶の文章を書いている2021年元旦は、昨年末から新型コロナウィルスCOVID-19の第三波の感染が急激に拡大している真っ最中です。大晦日には東京都の感染者がついに1,000人を超えました。当初、2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックは2021年に延期され、世界中が2020年ほぼ全年にわたってコロナ禍 (crisis) という言葉で覆われました。大学での講義の多くはオンラインとなり、新入生はキャンパスを知らず、同級生と話すことすらできない、希望に満ちたキャンパスライフとはほど遠い生活を強いられました。本学会員の中には大学教員が多くおられますが、皆様も学生への責任を感じられると共に、教育に大きなストレスを感じておられるのではないかと拝察いたします。

このように、教育や研究活動を活発に遂行するにはほど遠い一年でしたが、本学会の活動は会員のたゆまない精力的な努力によって、通常通り、あるいはそれ以上の意識をもって継続されました。幹事会・評議員会・総会は本学会の意思決定の重要な会議ですが、このうち幹事会・評議員会はオンライン形式への移行に伴い、遠距離から多くの時間を割いて出張していただかなくても参加していただくことが可能になり、出席率が増えました。意外な副作用ですが、ストレートな意見交換も実現しました。また、新しく松尾亮太編集委員長のもと編集委員会では、学会誌を予定通り1号から3号まで刊行していただきました。会誌記事の内容は、これまでと同じく、あるいはそれ以上に広い学術範囲をカバーしていただけたように感じます。これも編集委員会のご尽力と、オンラインでのスピーディーな編集意見交換の賜物だと思います。

最後に大会についてです。2020年の山形大会は11月22日(日)・23日(祝)に山形大学を会場にして行われました。大会を通常通り対面で実施するか、あるいは多くの学会で実施されているようにオンライン形式にするのか、その実施方法については(大会中止も含め)、一年近く議論しました。大会準備委員会の長山俊樹委員長と小金澤雅之委員は独自に計画と相談を進めていただきました。また、私ども執行部でも私のほか寺北明久副会長、仲村厚志庶務幹事、村田芳博庶務幹事、小島大輔会計幹事の5人で頻繁に意見を交換しましたが、その後、大会側と学会側が集まって意見交換する回数も増えました。前例のない状況において、大会として「できること」と「できないこと」、さらに学会本部として「協力できること」について、議論を重ねました。行事担当の伊藤悦朗幹事にも加わっていただきご意見をいただきました。このようなオンライン会議を進めるうちに、対面大会実施について、さまざまなアイデアが出されました。大きな2会場を交代で使う案も意見交換の中から出てきたアイデアです。大会10日前の執行部会においてすら対面大会に向け「前向き論」と「慎重論」が交わされ、この両方の意見を最後に長山先生と小金澤先生にお伝えし、最終判断をお任せいたしました。今後、何かの参考になることがあるかもしれませんので以下に記録として残します(役に立つような事が起こってほしくないですが)。


《前向き論》 今回の発表申し込みを見ると、若い世代の発表が多く、多くの新規学生会員が入会している。彼らは、(今年はほとんど実施されていない)対面大会の実施を期待して入会・発表申し込みをした可能性が高い。私たちは基本的には対面会議を実施しようと一旦は決心したので、この段階(第三波の予兆が見えている段階)でオンライン開催や中止を決めるのは「きっかけ」として弱くないか。変更・中止するにしても、ぎりぎりまで様子を見てからでよいのではないか。大学によっては、対面の講義を始めているところもあるので、密を避けて感染対策を十分に行う、食事時にも近接を注意する、などのルールを守れば大会実施は可能ではないか。よく言われているように日本の「経済を回す」のと同様に、私たちは「科学を回したい」と思う。基礎生物系ではまだ対面大会が実施された例を知らない。我々が無事に大会を実施すれば、「きちんと準備すれば対面大会はできる」ことを示し、諸学会の先陣を切り勇気を与えることになる。日本比較生理生化学会ぐらいの規模の大会でなければ(現時点では)対面大会の実施は難しいだろう。今後、第三波がさらに大きくなった場合には政府から何らかの方策が発表されると思われるが、最終的には、それらを考慮しつつ対面大会の実施に向かいたい。(一部改変)



《慎重論》 もしこの大会によって山形県民に感染者が増えるような事態になった場合、学会として大会を開催した責任を負わなくてはいけない。山形県民から学会参加者が感染するという確率は非常に低い(当時の山形県の新規感染者は1日3名程度)ので、その逆の、参加者が山形県民に広めてしまうことを避けるためには、とにかく参加者に厳しい健康チェックをしていただいて、ごく僅かでも体調に違和感がある場合には、勇気をもって参加をキャンセルしてもらうべきだろう。若い学生の中には、キャンセルしたら迷惑がかかる、あるいは、ドタキャンは非常識な行為だと思われるのではないか、と考える人も多いかもしれない。「そのようなことはない、怪しいと思った場合、少しでも感染の可能性が考えられる場合、ぜひ勇気をもって参加を取りやめてほしい」というメッセージを流すことは重要だろう。有志には有料PCR検査をしてから参加してもらう。(一部改変)



学会本部(執行部)では、基本的には週末に最終判断をされる大会準備委員会のご判断にお任せしよう、ということになりました。今週(11月第二週)末の段階で「対面で実施」を決断された場合でも、来週(大会予定の週)の感染者の状況などによっては急遽、講演発表は中止、総会と受賞者講演のみオンラインで実施、という方針変更もあり得る。この場合は予稿集をもって大会での発表とみなす、とする。

 このように開催直前まで議論を交わした山形大会でしたが、長山先生・小金澤先生のご英断で開催された対面会議の意義は非常に大きかったと思います。他学会のオンライン大会では得られなかった講演への活発な質疑応答、参加者同士の会話やふれ合いなどに、私は感動を覚えました。やはり大会開催は本学会にとって極めて重要な位置を占めることを再認識した次第です。参加していただきました会員の皆様はどのように感じられたでしょうか。

私の会長任期である2年の後半が始まるにあたり、ウィズコロナ・アフターコロナにおいて学会活動をどのように維持・展開してゆくべきか、大きな問題を問われていると思います。今年10月には水波誠委員長のもとで札幌大会開催が予定されており、かなり長い時間をかけて準備委員会による念入りな準備が始まっていますが、すでに当初の企画の一部は変更せざるを得ない状況と伺っています。日本でも来月から始まると言われているワクチン接種の効果に期待しつつ、学会本部として貢献できる部分はできるかぎり大会運営にご協力したいと思います。また会員の皆様には、どうか新しい発想で本学会の活動に対してご意見をお聞かせいただけますように、新年の機会に改めてお願いしたいと思います。昨年の年頭、会長就任の挨拶に書きました幾つかの目標をほとんど果たせない一年になってしまいましたことにつきましては、深くお詫び申し上げなければいけません。しかし、この未曾有の災害とも呼ぶべき緊急事態においても、本学会が着実に科学的活動を続けていることは、会員皆様の大きな努力に学会が支えられた証拠だと思います。ここに心からお礼を述べさせていただきたいと思います。本年一年も、どうか会員皆様のご協力をお願いしまして、会長からのご挨拶と昨年のご報告とさせていただきます。

令和3年1月3日

日本比較生理生化学会 
会長 深田吉孝

TOP