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昆虫外骨格で観察されるメラニン合成

  • 2013/10/3 

Summary

昆虫における脱皮後の外骨格着色や傷害時の着色で,2つのメラニン合成経路がある意義について,昆虫進化の歴史,及び他の節足動物との関係性なども交えつつ,急速に理解が深まりつつある。

 セミあるいはトンボのような昆虫が成虫になるシーンをテレビや本を含めて目にする機会が多い。アブラゼミの幼虫は木に登って羽化する場所を見つけた後に,まず幼虫の殻を脱いでから脚や翅を伸ばし,その後だんだんと体(ここでは外骨格)が硬くなるのと同時に着色する(図上段)。この,「外骨格が硬化しながら着色する」現象にどのような反応が関わっているのかについて,近年盛んに研究されている。ここで特に色に関して説明すると,脱皮後に生じる茶〜黒色系の色素はメラニンで,私たちの髪や目にあるメラニンとほぼ同じものである。脊椎動物同様チロシンから出発する反応経路を経て合成される(図の中段)。ただし,昆虫の場合,傷ついたときやバクテリアなどの病原が体内に侵入した場合もメラニンが合成される。図下段左側の写真はカイコガの幼虫だが,左の2個体はサンドペーパーで背中側に傷を付けて半日経過している。外骨格表面がメラニン化している他,最表層のワックスが失われたことで水分を失い縮んでいる。ここで起きるメラニン合成は,クワガタムシなどの外骨格を黒くするためのメラニン合成(下段右)と同じ反応経路をたどる。図中段に示すL-dopaやdopamineがそれぞれdopa quinoneやdopamine quinoneへと変換される反応はメラニン合成のキーステップだが,昆虫の場合このステップにかかわる酵素が実は2種類存在する。脱皮後の外骨格着色と傷害時の着色で,それぞれLac2またはPOと略称される分子が大変重要な働きを担っている。これらは全く異なるタンパク質ファミリーに属するが銅を持つと言う共通点があり,メラニン合成過程において同じ反応を触媒する。昆虫に2つのメラニン合成経路がある意義について,昆虫進化の歴史,及び他の節足動物との関係性なども交えつつ,急速に理解が深まりつつある状況と言える。

首都大学東京 朝野 維起 

 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.30 No.3 表紙より)

 

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