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ゼブラフィッシュの初期胚におけるJNKシグナル伝達経路

  • 2013/5/15 

Summary

原腸形成期の細胞運動の解析やシグナル伝達系の解析に適しているゼブラフィッシュを用いて初期形態形成におけるJNKシグナル経路の詳細な解析を試みた。

 いかなる複雑な形態をもつ多細胞生物であっても,元をたどれば一個の受精卵から発生がスタートする。初期胚は比較的単純な構造を持った胞胚から多細胞生物の基本構造を備えた複雑な原腸胚へと変化を遂げる。生物のボディプランの基礎を確立する原腸形成過程はダイナミックかつ統制のとれた細胞運動が特徴であり,外胚葉・中胚葉・内胚葉の三胚葉を正しく位置づけ,その後の器官形成の空間的配置を決定づける重要なステップである。なかでも原腸形成運動の原動力の一つとして最もダイナミックな運動が「収斂伸長運動」である(左上段図)。収斂伸長運動には非古典的Wnt情報伝達系が関与することが知られている。この情報伝達経路はWntの受容体であるFrizzledと細胞内タンパク質Dshを介して低分子量Gタンパク質Rhoファミリーを活性化し,下流のJNKシグナル経路を活性化することにより形態形成運動を統御すると考えられていたが,詳細な分子機構は未だ不明であった。
 ゼブラフィッシュDanio rerioは哺乳類とは異なり母体外で短時間に発生が進行し,胚が透明で容易に観察できることから,古くから初期発生の研究材料として用いられている。また,遺伝子操作が容易であり変異体が多数単離されていることから,ゼブラフィッシュは原腸形成期の細胞運動の解析やシグナル伝達系の解析に適している。著者はこうした利点に着目し,ゼブラフィッシュを用いて初期形態形成におけるJNKシグナル経路の詳細な解析を試みた。その結果,原腸胚ではJNKが上流の活性化因子のひとつであるMkk4bを介して活性化し,隣接した細胞のWnt11の発現量を厳密にコントロールすることによって収斂伸長運動を緻密に統御している可能性が考えられた(右上段図)。JNKシグナル経路はゼブラフィッシュの初期発生過程において,背腹軸形成・収斂伸長運動・体節形成といった多様な生理機能を一手に担っていることも明らかとなった(下段図)。これらの知見は初期発生過程におけるヒト遺伝性疾患の分子基盤の理解につながることが期待される。

東京医科歯科大学 浅岡 洋一 

 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.30 No.2 表紙より)

 

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