- 2025/8/15
Summary
鱗食性シクリッド科魚類は,個体ごとに口部形態に左右差があり,左側の下顎骨が大きい左利きは獲物の左側から,右側の下顎骨の大きい右利きは獲物の右側から襲う。右利きと左利きで,脳のどこがどのように異なっているのかを調べている。
ヒトの手をはじめとして,体の左右一方を主に使う行動の左右性(利き)は,実に多くの動物で見ることができる。アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性シクリッド科魚類(Perissodus microlepis,以下,鱗食魚)は,利きの動物モデルとしてよく知られている。このサカナは個体ごとに口部形態に左右差があり,左側の下顎骨が大きい左利きは獲物の左側から,右側の下顎骨の大きい右利きは獲物の右側から襲う。写真は右利き個体の鱗食魚が,餌魚であるキンギョの右体側を襲う瞬間をハイスピードカメラで捉えたものである。このような高時間分解能解析によって,利き側から襲った時の方が,獲物に噛みつく際に示す胴の屈曲運動能力は有意に高く,この運動優位性が右にあるか左にあるかは,生まれつき決まっていることが明らかになった。一方で,獲物を左右どちらから襲うのかという選択は,鱗食経験による学習に依存することも分かってきた。襲撃時の胴の屈曲運動は,神経回路を想定することが可能であり,実際に右利きと左利きの間で,脳のどこがどのように異なっているのかを調べている。
北海道大学大学院 竹内 勇一
(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.42 No.2 表紙より)