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線虫 C. elegans の低温適応の分子機構

  • 2015/6/12 

Summary

線虫 C. elegans には,既に知られている高温に対する耐性機構である「耐性幼虫」のほかに,低温に対する耐性機構「低温適応」が存在する。

   動物は, 環境温度の変化に反応し,適応することができる。しかし,その体内で起こる適応機構には,未だわかっていない部分が多く残る。線虫 C. elegans は,細胞数が約959個と少ないが,遺伝子数はヒトと同程度もっているため,高等動物における複雑なメカニズムを単純化して考えることができる。C. elegans には,既に知られている高温に対する耐性機構である「耐性幼虫」のほかに,低温に対する耐性機構「低温適応」が存在する。この低温適応は飼育温度に依存しており,20℃で飼育した個体は2℃の低温で死滅するが,15℃で飼育した個体は2℃でも生存できる。この温度の違いを感知しているのは,頭部にある1対の感覚ニューロンASJである(写真右上)。ASJ 感覚ニューロンは光を感知するニューロンとして知られていたが,温度も感知していることがわかった。ASJ 感覚ニューロンでは,光と温度は同じG タンパク質経路を介して伝達され,シナプスからの分泌ホルモンであるインスリン分子の放出を制御している(図左上)。それが腸や神経系で機能するインスリン受容体DAF-2で受け取られることで,下流へ情報を伝達している。腸や神経系ではインスリン経路が働き,転写因子による遺伝子の発現制御が行われることで,脂肪酸の構成比を変化させ,低温適応が制御されている(図右下)。

甲南大学 久原 篤・宇治澤 知代・太田 茜

 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.32 No.2 表紙より)

 

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