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脊椎動物の環境適応とバソプレシン/バソトシン

  • 2014/7/1 
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Summary

バソプレシン/バソトシンは,四肢動物では“抗利尿ホルモン”とも呼ばれて体内水分の維持に働くが,水中生活を営む魚類では水の保持ではなく,塩類の保持に作用している。

 バソプレシン/バソトシンは,四肢動物では“抗利尿ホルモン”とも呼ばれて体内水分の維持に働くが,水中生活を営む魚類では水の保持ではなく,塩類の保持に作用している。脊椎動物の進化と環境適応において,この作用の違いは何を意味しているのだろうか?
 バソプレシン(vasopressin:哺乳類)/バソトシン(vasotocin:非哺乳類)は,体内水分の喪失に応答して脳下垂体後葉から放出され,腎臓において尿からの水再吸収を促進する“抗利尿ホルモン”として働いている。この抗利尿作用は,腎臓に存在するV2受容体を介した水チャネル(アクアポリン2)の発現促進によって発揮されており,我々,四肢動物はこの仕組みの獲得によって,水場から離れた陸上環境でも簡単には干からびることなく生きることができるのである。著者らは,バソプレシン/バソトシンの抗利尿作用の起源を探ることで,このホルモンが脊椎動物の進化と環境適応に果たした役割について調べている。これまでに,四肢動物に最も近縁な魚類である肺魚に,この仕組みが存在することを見つけており,淡水中では機能しないが,夏眠と呼ばれる陸生化にともなって機能して,水の保持に働くことを明らかにした。そして,この分子基盤は肺魚よりも原始的であると考えられているシーラカンスのゲノム中にも見出された。その一方で,著者らは,これまでV2受容体の存在が疑問視されていた硬骨魚類(メダカとポリプテルス)にも機能的なV2受容体が発現することを見つけた。しかしながら,硬骨魚類や軟骨魚類のゲノムには四肢動物や肺魚に発現した水チャネル遺伝子が存在していなかった。そこで,著者らは,魚類でのV2受容体を介したバソトシンの作用を探るため,メダカを用いてV2受容体とリンクする輸送体を探索した。その結果,サイアザイド感受性Na+-Cl 共輸送体(NCC)がメダカの腎臓においてV2受容体と共局在すること(写真),メダカへのバソトシンの投与は腎臓でのNCC 発現を増加させ,その作用はV2受容体アンタゴニストの投与によって阻害されることが示された。淡水魚のメダカにとって,塩類の保持は体液浸透圧を維持する上で必要不可欠であることからも,バソトシンがV2受容体を介してNCCの発現を制御し塩類の保持に作用するという結果は理に適っていると言えよう。反対に,海水魚の腎臓には遠位尿細管(塩類吸収の盛んな分節)が存在していない。このような異なる作用がいつ,どのようなメカニズムで生じて,脊椎動物の多様な環境適応に寄与したのかは未だ明らかになってはいない。

富山大学大学院理工学研究部生体制御学講座 今野 紀文

 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.31 No.2 表紙より)

 

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