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さえずり学習中の小鳥はわざと下手なさえずりを歌う

  • 2012/5/15 

Summary

今回筆者らは,鳴禽の幼鳥が「本当はより上手なさえずりを歌えるのにもかかわらず何故か下手なさえずりを歌っている」ということを明らかにした。

 美しいさえずりを歌う小鳥類は一般に鳴禽と呼ばれ,その多くは幼鳥期に親鳥などのさえずりを真似ることによって複雑なさえずりを発達させることが広く知られている。彼らは初めは非常に下手なさえずりを歌うのだが,何度も繰り返し練習することによって徐々にさえずりを上達させる。そのため,「さえずり学習中の幼鳥が下手なさえずりを歌うのは,単にその鳥がまだ練習不足で上手なさえずりを歌えないからである」と古くから信じられていた(夏目漱石の小説「門」にもそのような歌の下手なウグイスの話の一節がある)。しかし今回筆者らは,そのような鳴禽の幼鳥が「本当はより上手なさえずりを歌えるのにもかかわらず何故か下手なさえずりを歌っている」ということを明らかにした。さえずり学習の研究でよく使われるキンカチョウを用い,さえずり学習途中の幼鳥の行動を詳細に観察したところ,通常は未熟で下手なさえずりばかりを歌う鳥(左図)が,雌に対して求愛する際には格段に上手なさえずりを歌う(右図)ことを見出した。下段は,キンカチョウ幼鳥が通常のさえずり(左)と求愛のさえずり(右)をそれぞれ4回鳴いた時の音声の音響構造(ソナグラム)を示している。通常のさえずりは個々の音素の音響構造が不明瞭で,また鳥が歌う毎に全体の構造が大きくばらつくのだが,求愛のさえずりは,より明確で定型的な構造を持つことがわかる。性的に未熟な幼鳥は通常,求愛のさえずりを滅多に歌わないため,この単純な知見がこれまで全く知られていなかったのだが,今回筆者らは,幼鳥オスが交尾誘発姿勢を示す成鳥メス(左図の♀)に対しては比較的多くの求愛のさえずりを歌うことを見出し,それを利用して多くの求愛のさえずりを記録・解析することにより今回の発見に至った。現在,幼鳥がなぜそのような下手なさえずりを歌いながらさえずりを発達させるのか?という問題を明らかにするべく,下手なさえずり生成メカニズムの神経生理学的解析を行っている。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校   小島 哲 

 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.29 No.2 表紙より)

 

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