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フタホシコオロギの精包

  • 2007/6/7 

Summary

フタホシコオロギの精包は,卵形体(下半分) 付着板(上半分)および精子管(もっとも上部の湾曲した糸のようなもの)からなっている。

フタホシコオロギの精包は,卵形体(下半分) 付着板(上半分)および精子管(もっとも上部の湾曲した糸のようなもの)からなっている。 

  • 卵形体:表面から外膜,排出液層(透明),結晶層(青と紫),内膜に包まれた精子塊 (白い球形部分)に分かれている。精子塊の下の部分には精子を押し出す圧力体があ る。卵形体末端のふくらみは精子袋と呼ばれ,はじめ精子塊が占めていた場所である。
  • 付着板:湾曲したさじ状の形態をもち,その前端に3つ,後端に2つの爪状の突起 がある。これにより雌の産室内の天井に付着し,精包を固定する(卵形体は産室の外 に留まる)。付着板と卵形体は弾力性のある細いネックで繋がっている。
  • 精子管:長さ2mmの細長いチューブ状の管(外形7μm内径2μm)で,付着板の背 面正中部を通って卵形体の精子塊を包む内膜とつながっている(内膜の前端が伸長し たものとも考えられる)。ここを通って精子は外に押し出される。精子管は,交尾時 に雌の受精嚢管に挿入されるので,精子はそこを通って受精嚢に至る。精子管と付着 板の間にある白い斑点状の領域は,そこに透明なゼリー状物質があることを示す。

精包は,付属腺からの分泌物と精巣からの精子塊によってつくられる。分泌物はお もにタンパク質で,当初ゲル状のものが,射精管を通り,鋳型となる外部生殖器(背 側嚢と腹葉)に流し込まれると,約40分で自然に固化し,写真のような精包へと完成す る。このような精巧な構造物が,短時間のうちに自己組織的に出来上がってくるとい うのは驚異である。ただし,傷のないまともな精包をつくるには,鋳型内部を常に清 掃しておく必要がある。詳細は本誌解説を。

岡山大学大学院自然科学研究科 熊代 樹彦 

 

(出典: 学会誌「比較生理生化学」Vol.24 No.2 表紙より) 

 

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